泌尿器科・外科 重野医院

浜松市の泌尿器科・排尿障害・ED・前立腺がん・尿漏れ・性病科 重野医院

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前立腺疾患

前立腺肥大症

前立腺は男性の膀胱頚部から外尿道括約筋の間で、尿道を取り巻いて存在する臓器です。前立腺肥大症は前立腺の移行領域から発生する良性腫瘍です。その発育には男性ホルモンが関係しているのですが詳しいメカニズムは分かっていません。
前立腺の肥大は40歳代からはじまり、50-60歳代で急速に進行します。自覚症状は排尿症状〔尿の勢いの低下、排尿時間の延長、いきみ排尿、残尿感〕と蓄尿症状〔頻尿(夜間頻尿)、尿意切迫感〕があります。これらは国際前立腺症状スコア(IPSS)として初診時に記入していただいています。IPSSは0-7点は軽症、8-19点は中等度、20点以上は重症です。
前立腺は肛門からの触診(直腸診)で触れます。前立腺の大きさ、硬さ、左右対称性、圧痛などを調べます。客観的な情報としては超音波エコ-、尿流量測定などがあります。超音波エコーでは前立腺の大きさと形のほかに残尿(排尿後に膀胱に残ってしまう尿)を調べることが出来ます。
前立腺肥大症で蓄尿症状や排尿症状が出現する背景には下部尿路閉塞と膀胱機能障害とがあります。尿路の閉塞には肥大した腺腫が尿道を圧迫する機械的閉塞と前立腺平滑筋の過剰な収縮による機能的閉塞の2つが関与しています。そのために腺腫の大きさだけでは排尿障害の程度を推定できません。膀胱機能障害にも膀胱平滑筋が過剰に収縮する過活動膀胱と排尿筋の収縮力が低下した低活動膀胱があります。このように前立腺肥大症の症状は前立腺腺腫の大きさ、機能的閉塞、膀胱機能障害の3つが複雑に絡んでいます。薬物治療も使う薬剤は簡単ではありません。

 

前立腺肥大症と夜間頻尿

前立腺肥大症の自覚症状で患者さんが一番訴えるのは「夜寝てからトイレに起きるようになった。」=夜間頻尿です。前立腺肥大症と夜間頻尿について琉球大学泌尿器科の菅谷先生の面白い話を聞いてきたのでご紹介します。夜何回以上トイレに起きるのを夜間頻尿というのでしょうか?先生は「回数ではなくて、トイレに行くのが苦痛かどうかによる」といいます。一晩に3回起きても苦にならない人もいるし、一回でもいやだという人もいる。苦痛かどうかの「本人の主観」によるのだといいます。
夜間頻尿を訴える人には、まず排尿記録をつけていただきます。3日間24時間の排尿回数と尿量を記録してみると色々なことが分かってきます。夜間頻尿の原因で多いのは夜中に尿量が多い「夜間多尿」です。今、脳梗塞の予防に寝る前に水分を沢山飲んで血液をサラサラにしなさいといわれます。それは実験に基づくものではありません。先生の実験では水分を多飲しても血液の粘稠度は変わらないそうです。
つまり、水を沢山飲んでも排尿回数が増すだけで脳梗塞の予防には役立たないのです。前立腺肥大症による残尿が原因の場合ももちろん多くあります。他には睡眠が浅いことも重要な因子になります。明け方3時頃から数回排尿する人は早朝高血圧症が考えられます。
夜間頻尿を少なくするには、水分を飲みすぎている人は水分を減らすこと。前立腺肥大症の人はα1ブロッカーを服用すると1回少なくなり膀胱の刺激症状を減らす抗コリン剤で0.5回少なくなり、睡眠薬や精神安定剤の使用で1回減らすことが出来るといいます。ところが身体を適当に疲れさせ、脳が心地よい安定感を覚え、さらには汗をかくので尿量も減り、平均1.5回も夜間の排尿回数を減らす方法があります。
それは夕食後30分散歩することです。1ヶ月続けるとどんな薬よりも効果があるそうです。是非試してみてください。

 

前立腺肥大症の手術

前立腺肥大症は薬剤で症状が取れなくなった時や残尿がいつも多く残り、尿閉が繰りかえし起きるようになると手術が必要になります。
30年前まではお腹を切って前立腺を摘出してましたが、その後、尿道から内視鏡をで前立腺を切除するTUR(経尿道的前立腺切除術)が主流になり、最良の手術法とされました。しかし、10年くらい前から内視鏡の進歩とレーザー治療の発達で出血量の少ない種々の方法に代わられてます。かなりの高齢者や合併症のある人でも安心して受けられる手術になりました。

 

PSA (前立腺がんの検査)

「PSA」はProstatic Specific Antigen(前立腺特異抗原)の頭文字をとったものです。正常の前立腺にも存在する蛋白質の一種で、本来は精液の一部として精子の活動を活発にするのに役立ってます。前立腺から発生する癌は前立腺の細胞の本来の働きをまだ保っているので、癌細胞も「PSA」を作り出しています。しかし、癌細胞は勝手に増殖していくので作られた「PSA」を精液に送り込む管を持ってません。どんどん作られても行き場がないので「PSA」は血管に吸収されます。それで血液中の「PSA」が増えてきます。こうして「PSA」を測ることで前立腺に癌があるかどうかが分かります。
現在のところ、血液を検査することで診断できる癌は前立腺癌だけです。
「PSA」は正常の前立腺細胞にも存在するので『「PSA」があれば癌、なければ正常』という訳には行きません。検査法によって多少違いますが、本院では4.0ng/ml以下が正常値です。10ng/ml以上だと癌の疑いが濃くなります。前立腺肥大症や前立腺炎でもかなり高くなることもあり、4から10までの人は20人に1人に癌があると言われてます。「PSA」だけでなく、触診や超音波検査などで総合的に判断して、癌の疑いがある場合は生検(前立腺に針を刺して組織を一部採取し、検査します)をして、診断します。
50歳を過ぎたら、1年に1回くらいは「PSA」を測ってもらいましょう。

 

前立腺癌の治療

前立腺癌は最近PSA検査の普及などで早期に発見されることが多くなりました。
他の癌に比べると前立腺癌の治療はいろいろな方法が行われています。
それは前立腺という臓器の特性が影響されています。また病気の進行度によって治療法が選択されているからです。
「限局癌」
根治手術:癌が前立腺の中だけにとどまり、周りの組織やリンパ節の及んでいないときには前立腺全摘除術を行います。現在では開腹手術は少なくなり、腹腔鏡を使用する鏡下手術、器械だけを傷の中に入れて遠隔操作するロボット手術が主流になりつつあります。
放射線療法:限局癌では放射線療法も行われています。身体の外から照射する方法と前立腺に放射線物質を埋め込む体内照射法があります。
内分泌療法:前立腺癌が男性ホルモンの影響を受けているのを利用して、男性ホルモンを阻害する薬剤を投与して癌の発育を抑える治療法です。
 経過観察法:これらの治療を一切しないでPSAが急上昇するまで様子を見ます。
平均15年は癌は悪化しなかったという報告もあります。
「浸潤癌」 前立腺の周囲まで浸潤してしまっている癌には男性ホルモンの影響を失くすことで癌を小さくしてから手術をしたり、放射線治療をします。
「転移癌」すでに骨やリンパ節に転移が見られる場合は全身の病気ですから、男性ホルモン遮断法がされます。骨転移で痛みが強い場合はその蕪茯に放射線照射します。
最初はホルモン療法は効果がありますが再燃すると薬が効かなくなります。ホルモン療法が効果がなくなった患者には最近は強力な化学療法が出来てきました。

 

前立腺膿瘍

前立腺肥大症や前立腺癌は最近では知らない人は殆どいません。でも「前立腺膿瘍」を知っている人は非常に少ないと思います。急性細菌性前立腺炎ともいわれ、急性の細菌性の炎症で教科書には「診断は簡単である」と書いてあります。当院では一月に1-2人は来院します。しかし、実際には内科の医師でこの病気を知っている先生が少ないので最初に内科を受診して、的確に診断されることは稀です。
殆どが大腸菌の感染ですが、血行性の感染です。一般的には突然襲ってくる悪寒、戦慄とともに発熱し、時に39℃になることもあります。弛張熱(昼は下がるのですが夕方から高熱になり、どこかに膿がたまっている状態)で昨夜は酷かったけど朝になったら治ったと思ってしまい、夕方また熱が出てあわてて受診します。
さらに強い排尿痛、排尿困難を伴います。尿は出たくてたまらないのに、ポタポタしたたり落ちるだけで、少ししか出ない尿が出るたびに頭の芯まで響くような傷みが走ります。身体はだるく、腰の下の部分、骨盤の辺りが抜けるように痛みます。
このような症状から私たち泌尿器科医なら話を聞いただけで診断がつくのですが多くの内科医には経験のない症状です。ご本人もこのような症状をきちんと把握して話してくれる方は少なく、こちらから聞き出してやっと症状を正確に話してくれます。診察すると身体がだるそうでぐったりして、直腸から前立腺を触ると大きく腫れ、触っただけで膿がたまっている箇所に強い痛みがあります。
尿は白血球が多数で、いわゆる膿尿です。治療は一般的に大腸菌が原因ですから、抗生物質がよく効きます。どうしても尿が出ない場合は尿道にカーテーテルを入れますが、大抵は何とか出ているのであまりやりません。水分を多く摂って、安静にするのが一番大切です。
尿が自分で出ていれば入院する必要はありません。まだ、大学病院で研修していた頃、この病気の患者さんに大勢の学生が直腸から診察し、その直後に前立腺の膿が血液に入り、敗血症を起こして、亡くなった方がありました。
今でも前立腺膿瘍の患者さんを診るときには思い出します。