精巣(睾丸)から精管に移行する箇所に精巣上体があります。そこに細菌やクラミジアの感染があると炎症を起こします。陰嚢はその側が腫れて強い痛みや発熱もあります。陰嚢の内容を下へ引っ張ると強い痛みがあり、上へ押し上げると痛みが軽くなります。
陰嚢を冷やして安静にし、抗生剤で治療します。
小学5、6年生から中学1、2年までのいわゆる思春期前期の少年に起きる厄介な病気に「精索捻転症」があります。睾丸捻転症とも言われています。睡眠中や明け方に下腹部やソケイ部の鈍痛で目覚めますがだんだん痛みが強くなり、数時間後には陰嚢の発赤、腫脹、睾丸の腫大、を来たします。これは精索がねじれて血行が途絶えたために睾丸が腫れてきたものです。時間の経過とともに睾丸の壊死が進行します。
陰嚢の中で睾丸を取り巻いている一番内側の膜を固有鞘膜といいますが、この膜が睾丸の発育より先に大きくなって、精索や睾丸が膜の袋の中で自由に動くような時期が出来る児があります。陰茎の勃起や肛門括約筋を締めたときに挙睾筋という筋肉によって睾丸がお腹のほうへ吊り上げられます。挙睾筋は下腹部にある外腹斜筋の延長ですから収縮するときに睾丸を外側へ捻るように回転させます。睾丸が固有鞘膜の中で自由に動く状態だと精索が捻れてしまい、戻らなくなってしまいます。これが精索捻転症です。
診断は10歳前後の少年に起きること、発症時には鈍痛だったのが時間の経過とともに症状が悪化していくこと、触診で片側の睾丸に腫脹、圧痛があり、睾丸を押し上げても痛みが軽減しない(精巣上体炎では睾丸を押し上げると痛みが減ります。)などから疑われますが、確定診断は試験手術が必要だといわれていました。しかし、最近では超音波ドップラー・エコーで睾丸への血流を確認する方法が行われています。睾丸への血流が途絶えると数時間以内に捻転を解除してやらないと睾丸の精子を作る働きはなくなります。
本人は恥ずかしいのと発症時はあまり痛くないのとで親にも言わない場合が多く、医師もソケイ部や下腹部の痛みにとらわれて陰嚢の所見に気づかぬうちにどんどん状態が悪化して、病院に来る頃には睾丸を摘出しなければならなくなっています。しかし、開業してからは患者の大半は発症から2時間くらいで受診してくれています。それくらいの時間内だと外側へ捻れている睾丸を内側へひねって血流を戻してやると1・2分で患者は楽になって来たといい、睾丸の腫脹も取れてきます。患者や母親には発症の原因をよく説明し、「再発した場合にはまず、睾丸を内側へ戻してみること、戻らないときには迷わずに連絡するよう」に話します。再発する児がかなりいますが半年も経つと起きなくなります。成長とともに睾丸と固有鞘膜の関係が正常になるのでしょう
精巣(睾丸)にできる腫瘍はほとんどが悪性腫瘍です。セミノーマと奇形腫が主になります。陰嚢内容を触ると硬い睾丸を触ります。痛みは感じないのでかなり大きくなるまで本人が気づかないこともあり、お風呂で「お父さんのキンタマは大きいね」と言われ受診した人もいます。丁寧に触れば診断はつく病気なので針で確かめたり、小切開で組織を取らずに直ちに鼠蹊部まで含めた高位精巣摘除をしなければなりません。放射線療法や化学療法が良く効きます。これらの治療をすると残った精巣の精子を作る能力が無くなってしまうのでこれから結婚したり、子供が欲しい年代の患者には放射線や抗がん剤を使用するまえに精液を採取、保存して人工授精します。
睾丸(精巣)を取り囲んでいる膜の間に水が溜まる状態を陰嚢水腫(水留)といいます。出生後間もなく見られる先天的なものと成人に見られる後天的なものがありますが後天的な陰嚢水腫は原因がはっきりしないことが多いです。
中の液は淡い黄白色で透明です。痛みはなく、かなり大きくなるまで本人が自覚しない場合もあります。患者さんの陰嚢を触ると弾力があり、ペンライトで照らすと光が通ります。 だだ、鼡径ヘルニアや精巣腫瘍が合併していることもあるので専門医に診てもらってください。初診時には合併症がないことを確かめるために貯留液を注射器で吸引しますが、内用液は抜いてもすぐに溜まるので何度も吸引はしません。陰嚢が大きくて生活に不便なら手術をします。簡単な手術です。
「せいさくじょうみゃくりゅう」と読みます。こんな病気があることを知っている人は少ないと思います。16世紀に外科の父といわれるペレがこの病気を記載しています。患者さんは左の陰嚢部に重圧感、重苦しさ、不快感、鈍痛などを訴えて来院します。決して強い痛みを訴えることはありません。
たまに陰嚢内にもう一つ玉があるという人もいます。精索というのは精巣(睾丸)へ行く精管、精巣動脈、精巣静脈などが束を作っているものです。その精索の静脈の血流がうっ血して怒張、蛇行して太くなり、くるみ大から大きくなるとと鶏卵大になったものを、精索に出来た静脈瘤
つまり精索静脈瘤といいます。原因は次のように考えられています。左精巣静脈はお腹の中で左の腎静脈に入ります。腎静脈は一分間に500mlもの血液が下大静脈へ流れています。小さな精巣静脈から入る血流は停滞され、身体を立位にすると腎静脈の血流が精巣静脈へ逆流してしまいます。
もともと静脈の内面には血液が逆流しないように弁が所々についているのですが、血液の強い逆流などで弁が壊れてしまうことがよくあります。静脈弁が壊れると腎静脈からの逆流が起きて一番末梢の陰嚢内で精巣静脈瘤になります。なお、右の精巣静脈はお腹の中で下大静脈に直接入っているので静脈瘤は出来ません。診断には「睾丸が重苦しい、夕方になると下腹部が痛い、何となく腰が重い」など言う人が来ると寝てもらって陰嚢をよく触ります。睾丸、副睾丸、精索に異常がなく、鼠径ヘルニアもなかったら、患者さんに立ってもらいます。すると左の陰嚢にぶよぶよした腫瘤を触れます。それが静脈瘤です。患者さんにも立位と寝た姿勢で触ってもらって確認します。殆どの人が静脈瘤の存在に気づいていません。大抵のひとはすこし、身体を横にすれば回復します。しかし、痛みや苦痛が強くて仕事が出来ない人には手術して、腎静脈からの血流の逆流をなくせば治ります。比較的簡単な手術です。男性不妊症の原因に精索静脈瘤があるといわれていますが当院に来る人では子供のいる人が多く、関係ないように思えてなりません。
折角生まれてきたのにキンタマが袋の中にない子が時々います。睾丸(精巣)は通常生下時には成人と同様に陰嚢内に下降しています。 この下降過程の途中でなんらかの障害で下降が停止している状態を停留睾丸(精巣)または潜伏睾丸(精巣)といいます。 頻度は新生児では3.4%、未熟児では30%以上にみられ、生下時体重が多いほど少なくなります。睾丸(精巣)の下降過程は出生後も3-4ヶ月続きます。 その時期まで下降しないのが停留睾丸(精巣)となります。
発生には左右差はなく、未熟児では両側性のことが多いのですが、小児では片側が90%になります。 その位置によって、腹部停留睾丸、ソケイ管内停留睾丸、陰嚢高位停留睾丸、閉塞性停留睾丸に大別されますが、陰嚢高位停留睾丸が一番多く、約半数を占めています。
たしかな原因は分かっていませんが色々な機械的な因子やホルモン分泌の異常などが考えられています。
母親が陰嚢内容が触れないことで気づいたり、乳児検診で指摘されたりしますが、極くまれに中学生になるまで気が付かない子がいてびっくりすることがあります。
両側性の停留睾丸のまま成人すると高率に不妊症が発生します。 幼児期に手術で睾丸を陰嚢内に下げても精子を作る造精能は回復しないことが多いといわれていますが、停留睾丸は放置すると悪性腫瘍(主にセミノーマ)が出来やすいとされていますので陰嚢内に下降させる必要があります。
治療は満1歳くらいまでは自然に下降するのを期待して待ちます。 HCGというホルモンを投与する方法がありますがあまり効果がありません。 私が医者になった頃は小学校に入る前に手術をしていましたが、現在では麻酔法が安全になったので早期に手術で睾丸を陰嚢内に固定するようになりました。日帰りか一泊で出来る手術です。